音節文字について,初めてその名前を聞く人のために,最初に若干の解説を記しておく。 音を表わす文字のことを表音文字と呼ぶが,その中でも音素を直接表わす文字を音素文字 (segmental script)あるいはアルファベット(alphabet)と呼ぶ(以降,アルファベッ トについては「音素文字」で統一する)。音素には,子音と母音があり,子音(consonant) は発音の最初の部分で瞬間的に発音される音であり,母音(vowel)は子音に続く音である。 どのような発音でも,音を延ばし続けると母音になる。この子音と母音を合わせて一文字として表現したのが音節文字(syllabary)と呼ばれている。
インド系の文字は,アブギダ(abugida, alpha-syllabary, あるいは syllabics)と呼ばれ る子音の周りに母音記号を追加する文字体系になっているが,本稿ではこのアブギダにつ いても,音の捉え方は音節を単位として捉えていることから,音節文字の範疇に入れることにする。
この研究ノートでは,古代から現代までの音節文字について,時代別に概説し,続く研究ノートにおいて,それぞれの音節文字についての解説や,議論されている論点について
の考証を扱っていく。