中国では長い間、高齢者介護は家族によって行われてきたが、核家族化や少子化、都市化によって、家族の扶養機能が低下しつつある。増大する介護ニーズに対して、サービスの供給が不足し、すなわち高齢者の「ケア赤字」問題が生じている。これに対応すべく、政府は2016年に介護保険のパイロット実験を開始し、2025年までに全国導入を目指している。一見して中国は遅れて日本と同じ道を歩むようであるが、果たしてそうであろうか。
以上の問題意識を持ち、本稿は家族という視点から、中国における高齢者介護政策の性格を明らかにすることを目的としている。まず2020年までの介護政策を、家族の位置付けに注目しながら、高齢化社会になった2000年頃を境に2つの時期に分けてごく簡単に振り返った。つぎに、最近の政策動向として、家族の負担減を目指す介護保険と、それに相反する家族の規範を強化する動きの両方から整理したうえで、最後に中国の高齢者介護政策の性格と方向性を指摘した。