日本語のスルーシングは分裂文に基づく分析が一般的であるが,本発表ではその分析が適用され得ない表現「なんでまた」「なんだって」を提示し,分析を提案した。これらの表現の振る舞いを,Hiraiwa and Ishihara (2012)とHuang and Ochi (2004)の分析に若干の修正を加え,Rizzi (2004)のcriterial positionを採用して説明した。具体的には,スルーシングで生き残るWH表現はFocPに現れなければならないが,問題の表現はそこから話者の感情的態度を示すAttPに移動しなければならないとした。しかし,日本語のFocPはcriterial positionであるため,問題の表現はFocPからの移動が不可能となるとした。また,問題の表現が焦点の位置に生じない場合には,IntPに生じ,AttPに移動可能となり,IntPとともにFocPも削除され,スルーシングが可能となると論じた。また,英語の場合には分裂文の焦点はcriterial positionではなく,WH移動の行き先となる,疑問節の[Spec, CP]がcriterial positionとなることを観察し,criterial positionは言語によって異なりうることを示した。