本稿は1990年代後半から2000年代初頭における農村工業化が貧困削減にどのように寄 与したのかを明らかにする。今日のベトナムは,2045年まで近代工業を有する先進国に なることを目標として掲げ,高成長を維持している。それとともに国内の貧困削減も順調 に進めてきた。しかしながら,こうした近代工業中心の工業化と順調な貧困削減は,初期 局面における工業化と貧困削減が順調に進んだことも背景にあったといってよい。工業化 初期には近代工業とともに農村工業が同時併存して工業化を進めており,成長と貧困削減 を同時に達成してきたが,近代工業に焦点はあたるものの,もう一方の軸である農村工業 が貧困削減に如何に貢献したかは必ずしも十分に明らかになってきたとはいえなかった。 そこで本稿では,ベトナムにおける工業化初期を1990年代後半から2000年代初頭と定め たうえで,独自の農村調査で得られたデータにより工芸村と呼ばれる特定産品生産に特化 した村での農村工業進展が貧困削減に効果があったことを見出した。また「近代的zグッ ズ」の生産を行う工芸村の貧困削減効果が大きいことも併せて示した。