本稿は所得格差の拡大が進むベトナム農村部において,工芸村と呼ばれる村内の経済活
動が一つの業種に特化した村の役割に着目する。新型コロナウイルスのパンデミックはベ
トナムにおいて都市部から農村部への帰還移動の増加をもたらし,農村部でもその感染が
拡大することとなった。それにより農村の医療の脆弱性や高齢化といった問題の他,所得
格差が農村部において拡大していることも浮き彫りになった。コロナ禍により都市部での
雇用機会が失われる中,農村部で雇用を吸収し内発的に発展できるようなモデルが求めら
れるなかで,この工芸村が注目されてきた。すなわち工芸村は農村工業化のモデルとして
都市近代部門への依存性がないモデルと考えられる。そこで本稿は工芸村の発展により農
村所得が向上し,農村部で問題となっている所得格差が縮小する効果を実証的に検証した。
北部において典型的であるが工芸村は集積によりその所得上昇効果を波及させるスピル
オーバーが期待される。ゆえに各省の空間的位置情報と省別の工芸村数の情報用い,空間
計量経済分析を行った。それにより工芸村による所得格差の縮小効果とともに工芸村の集
積によるスピルオーバーの効果も確認することができた