本稿は近年経済成長著しいベトナムに焦点を宛て,貧困と格差の動向を確認するととも
に,それに対応してベトナムの政策や研究がどのように推移してきたのか,その特徴を明
らかにすることを目的とするものである。2010 年頃からベトナムはグローバリゼーショ
ンが進み,経済成長もさらに進んだが,その一方で貧困・格差問題には新たな側面がみら
れるようになった。すなわち農村部の貧困,少数民族の貧困,および地域間格差の問題で
ある。1990 年代から 2000 年代にかけては急速な経済成長の中で,国際援助コミュニティー
の支援とともに貧困削減政策がとられてきた。そこでの貧困削減政策は主に機会の平等を
付与する形で進められた。しかし 2010 年代以降は地域間格差の是正に焦点があてられ,
その枠組みのなかで農村部の人々,特に少数民族の人々が経済発展から取り残されている
ことを政府が認識する形で貧困削減が進められている。今日,地域間格差を解消し貧困削
減を進める枠組みとして「持続的な貧困削減を達成する国家目標計画」が実施されており,
農村開発と少数民族支援とともに 3 大国家プログラムとして位置づけられていることはま
さにその証左といってよいであろう。