本稿では,企業の負債と持分の配分割合である「資本構成」に焦点を当て,これを操作する要因として,報告指標の「形式的な」改善という経営者由来の動機が想定されること,また,「負債と持分双方の性質を有する金融商品」を用いることで,経営者にとって望ましい資本構成の調整が可能であることを議論する。本稿における具体的な検討・考察事項は次の通りである。第 1 に,資本構成をめぐる研究成果と近年の株主価値重視の傾向を踏まえたとき,個人的な効用最大化を優先させるという経営者の経済的動機が,資本構成の決定に作用する可能性について言及する。続いて,「負債と持分双方の性質を有する金融商品」を用いた複合的な資本政策を実施することにより,経営者にとって望ましい資本構成を,「形式上」実現することが可能になることを論じる。具体的には,企業の負債の割合を形式上増加させる資本政策としてリキャップ CB を,反対にこれを形式上減少させるものとして優先株式を用いたデット・エクイティ・スワップを措定し,その目的と効果について整理を行い,今後の研究展望を示すことを狙いとする。