「労働と経営の一要素としての通過儀礼―江戸時代から大正時代における米沢の繊維業を対象に―」, 荒川俊彦編,『国府台経済研究-労働観の表象と変遷に関する比較歴史社会学的研究-』(千葉商科大学経済研究所2022 〜2023 年度共同研究)
本稿では大正期を中心にした米沢の繊維業を対象に、江戸時代末期から大正時代において米沢の繊維業を営んでいた人々のルーツの多様を鑑み、労働という観点で論じ難いことを指摘したうえで、「通過儀礼」という概念に注目をして解釈を試みている。解釈を試みた結果、米沢の繊維業における農家、商家と職工、武家それぞれの「労働観」に相当するものは2点に大別可能との理解に至った。1点目は武家以外の商家、職工、農家における「通過儀礼」であり、労働や経営というよりも、家族やコミュニティーにおける一人前として果たすべき務めである。2点目は旧米沢藩のまとまりを保っている武家における「通過儀礼」であり、旧藩や地域に富や名声を還流させる人材になることである。上記の解釈を踏まえた結果、「労働観」は「通過儀礼」の概念に拠るかたちで解釈できるとの結論に至った。なお、江戸時代末期から大正時代という体制の大きく変化した時代を対象に考察をしたことで、(本論において扱っていないが令和時代も意識できるかたちで)新たな切り口から考察できる視座を見出すことができた。これによって、近い将来に訪れる可能性を有している、多極化した世界における複数の国家と労働観を「通過儀礼」の視座から論じられるものと考える。
(千葉商科大学経済研究所)