本論文の目的は,金融商品に係る減損モデルのプロシクリカリティに関する研究のレビューを行い,それぞれの結論が異なる要因について検討することにより,今後の課題と展望について考察することである。予想損失モデルのプロシクリカリティを決定する重要な要因は,予想損失推計のインプットとして用いられたマクロ経済の状況,またはそれらにもとづく仮定やシナリオではなく,先行研究における予想損失の推計手法である可能性があり,それにより先行研究においてプロシクリカリティに関して相反する結論が導き出されてきたと考えることができる。さらに,このことは予想損失モデルを適用する個々の企業においても,予想損失を算定するためのモデルや手法がプロシクリカリティを決定する重要な要因となることを示唆しているため,今後は予想損失モデルを適用した企業における開示についても研究課題とする必要がある。