近年、国民経済計算に係る国際的な議論において、供給使用表(SUTs)に企業の異質性を組み入れる形で拡張することが提案されている。異質性とは、具体的には輸出・非輸出、本邦・外資、大・中小、海外子会社の有無などを指す。供給使用表の拡張については、既にOECDが公表している付加価値貿易(Trade in Value Added, TiVA)指標の改善方法として、OECDの専門家グループなどで検討されているところである。
そうした動きを踏まえ、本稿では、企業活動基本調査、経済センサス-活動調査や鉱工業投入調査といった、代表的な企業単位、事業所単位の統計を用い、ミクロデータのマッチングを行うことによって、供給使用表に組み入れるべき異質性について検討を行った。
分析の結果、拡張供給使用表に組み入れるべき企業の異質性として、総じてみれば、加工組立産業では輸出・非輸出による区分が、素材産業では大・中小企業による区分が有用と言えることが明らかになった。今後は、そうした点を踏まえ、企業の異質性を組み入れた拡張供給使用表を試作し、OECDと協議していくこととしたい。
一方、次期SNAの改訂にあたり、グローバリゼーションがSNAに与える影響を把握する観点から、供給使用表において、産業分類を、①本邦企業(海外子会社非保有本邦企業)、②本邦の多国籍企業(海外子会社保有本邦企業)、③外国の多国籍企業に支配される企業(外資企業)といった、3つの範疇に区分に区分する拡張方法が提案されている。
また、今回の分析で、輸出・非輸出、大・中小企業といった異質性について、識別をどの単位で行うべきか検討する必要があることが明らかになった。輸出・非輸出(あるいは大規模・中小)の識別は、企業単位と事業所単位の両方が考えられる。企業単位で行う場合には、企業活動基本調査を用いた分析のように輸出・非輸出の判定を企業ごとに行い、輸出企業であれば傘下の事業所をすべて輸出事業所とみなすこととなる。現行SNAの統計単位は事業所であるため、最終的な統計表における統計単位はいずれの方法でも事業所となるが、他方で海外子会社保有の有無は企業単位でした識別できない。国際的な議論ではこうした点を踏まえ、SNAの統計単位を事業所ではなく企業にすべき、といった指摘もみられ始めている。今後は、これらの論点をも踏まえ、拡張供給使用表の作成に取り組んで行くこととしたい。