本稿は、AI時代の所得格差を、AIという技術の直接的帰結としてではなく、AIによって形成された価値が企業内部の分配決定を経て異なる主体へ帰属する過程の結果として捉え直す。AIは価値形成に寄与し得るが、その成果を所得として受領する主体ではない。形成された価値が賃金、役員報酬、配当、内部留保等のいずれに向かうかは、制度に規定された分配決定権構造のもとで、企業内部の分配決定を通じて具体化される。したがって、同一のAIであっても所得格差は異なり得る。また本稿は、労働分配率の集約指標としての意義を認めつつ、同指標が役員報酬と従業員賃金を合算するため、企業内部における価値帰属の差異を十分に識別できないことを示す。業種別データでは、形成・美容外科と保育所の労働分配率はほぼ同水準である一方、役員報酬分配率はそれぞれ30.1%と9.2%であり、大きく異なる。以上を踏まえ、労働分配率を役員報酬分配率と賃金分配率に分解し、さらに支配ペイレシオによって支配主体と従業員との分配関係を測定する多段階の測定枠組みを提示する。ただし、AI導入が人員削減を伴う場合には、従業員数の変化および企業外部へ退出した労働者の所得変化も併せて観察する必要がある。