本研究は,慢性的な人材不足に直面する介護業界において,経営者報酬と従業員賃金の
関係をペイレシオ分析により定量的に解明した。介護報酬という公定価格制度下で,営利
法人,社会福祉法人,医療法人が混在する介護業界では,報酬分配の実態が不透明であっ
た。『第15 次業種別審査辞典』の2022 年度データを用い7 業態を分析した結果,ペイレ
シオは全企業で2.2~7.3 倍,黒字企業では2.1~12.5 倍の格差を示した。特に介護老人保
健施設の黒字企業では12.5 倍とTOPIX500 社の中央値を上回る異常値となった。
さらに,黒字化の便益が経営者層に偏重し,7 業態中6 業態で経営者報酬プレミアムが
従業員賃金プレミアムを大幅に上回った。営利法人のペイレシオが平均2.5 倍に収束する
一方,非営利法人は財務的余裕を背景に平均6.9 倍と約2.8 倍の格差が存在した。これら
の構造的歪みに対し,本研究では経営者報酬と従業員賃金の変動を比例的に連動させる「比
例連動の原則」を提唱した。本研究の意義は,公的資金で運営される介護業界の報酬分配
構造を初めて定量的に解明し,人材問題解決への具体的方策を示した点にある。