本報告では事例企業キヤノンの内部環境マネジメント・コントロール・システムの構造を明らかにすることを目的とした。研究方法は単一ケース・スタディ法であり、事例企業に関する多様な文献調査をふまえて、同社の環境組織文化を分析・解釈した。まずSchein(2017)と伊丹・加護野(1993)から、企業成長の原動力は異方向のベクトル間におけるゆれ動きにあることを確認した。文献調査から事例企業の中核的な価値は「技術」にあり、企業成長の原動力もここにあるとした。しかし経済バリューの追求だけでは、企業構成員に継続的に貢献してもらうことは難しい(Barnard 1966)。事例企業は経済バリューの追求・実現とともに、CSRバリューをその対立軸とし、具体的な展開内容は時代のニーズに応じて変化させていた。現在多国籍優良企業キヤノンは、ついに経済バリューの対立軸として、一企業体のみではとうてい解決しえない地球環境問題への取り組みを重視・設定している。これはそれ程までに同社の経済活動が大規模化してしまったことを表している。また同社の3期にわたる価値観の変遷の分析から、極めて均衡的な内部環境マネジメント・コントロール・システムを構築していることを明らかにした。