本稿では、現在、一般的となっているデジタル環境での組版技術は従来の技術がその歴史の中で研鑽された結果のものとした上で、夏目漱石『吾輩は猫である』の初刊本を手がかりに、考察対象を本文紙面に絞り、書物の形成法を試論的に検討する。日本における洋装本の歴史の草創期に刊行され、現代でも多くの読者に読まれているということを条件に設定し、夏目漱石『吾輩は猫である』を分析対象として選択したが、『吾輩は猫である』は現代に至るまで様々な出版形態で刊行されている。本稿では、それらの中で、明治38(1905)年の大倉書店・服部書店の連名で刊行された初刊本を分析し、加えて、刊行された時代情勢と読書の環境、そして同時期の刊行物を調査し、どのような読書の形態が形成されていたかを考察する。