トルコには「メッダーフルック」 (Meddahlık)という、一人の語り手が仕 草や声色で複数の人物を造形し、聴き手の 興を誘う話芸があった。メッダーフルックは会話を中 心とした表現方法で物語を進め、聴き手を 想像の世界へ導いていた。宗教や聖人伝説 を語ることからスタートしたメッダーフ ルックであったが、次第に宗教色が薄れ、 人々の実生活にかかわる噺が増えた。しかし、20世紀に入ってから、娯楽の多様化や 西洋演劇の受容によってほんのわずかに演 じられる程度にまで衰退し、メッダーフ ルックを職業とする語り手が現在ではほと んどいなくなった。 本研究では、落語の口演形式との比較の 上で、メッダーフルックの構造分析を行い、 落語とメッダーフルックには共通する要素が多くあることを明らかにした。また、歴史的な背景の分析も行った結果、メッダーフルックと落語の成立に「宗教性」が関与しているという点においても共通していることを検証した。