本稿の目的は以下の二つである。第一に,保育園に入園できない待機児童の生じる構図を明らかにすること,第二に,保育園建設を進める動きと保育園建設に反対する動きの内実とその意味を明らかにすることである。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の相対的・絶対的不足や,個人の経済的・社会的自立志向を背景に,平成30年の人口動態統計の年間推計によれば,1年間の出生数は92万1千人と,3年間連続して100万人を下回った。一方で,厚生労働省によれば,待機児童数は年間で最も少ない年度当初の4月時点でも2万人を超えていて,増加の一途を辿っている。本稿は,まずこの点について詳細を明らかにした。
この現状に対応すべく,既存保育園の定員増員や育休退園に加え,保育園の新設も取り組まれているが,新設にあたっては,建設反対の動きが生じることがある。本稿は,この動きの中でも特徴的な東京都杉並区の事例を用いて,地域社会との関係について検討を行い,住民運動論における運動者の「理論的ディレンマ」が時間を経てなお生じうることを明らかにした。