そもそも結婚というものは考えれば考えるほど不思議な通過儀礼である。お互いが惹かれ,心底愛し合うとはいえ,それまで全く別の環境,家族の中で生きてきた2人が,ある瞬 間を境に共同生活を開始するのである。そして新婚旅行は,その第一歩として,2人が「甘い旅程・演出」のもと,比較的豪華な旅行に発つのであり,生涯の思い出として長く記憶に残るのは当然であろう。 本稿を著したいと考えたきっかけは,①祖父母の新婚旅行写真を発見したこと,②坂本龍馬が妻と向かった鹿児島行が「わが国最初の新婚旅行」である,という性質の異なる2つの,しかし新婚旅行という共通ワードについて気にかかったからである。 本稿は新婚旅行に関わる理論的な考察は次稿に譲り,それの前段として資料の博捜を優先させた。この論攷のきっかけに関する結論は,国内有数の観光地でも新婚旅行招致を積極的にPRしていた事実は発見できず,本邦初の新婚旅行といわれる旅を認定するに至ら ず,論攷に徒労感が漂うと感ぜられる部分があるかもしれない。しかしわれわれは,わが 国の新婚旅行あるいはブライダル文化などの研究に資する部分があると考えている。ま た,雑誌その他の資料渉猟とそれの整理は日本の近代史にとっても,基礎資料としてささ やかながら貢献するところがあるとも確信する。たとえば,戦後の新婚旅行の一般大衆化 と現代から未来のそれに,本稿で述べた「意味」や「心得」が変化することによる影響の問題などである。よって,われわれの作業が,次の新しい気づきを与える可能性を大いに期待するものである