本稿は正当性の喪失という観点から、金融分野のイノベーションとして期待されていたソー
シャルレンディング産業における一連の不祥事を検討したものである。具体的には、事例研究
と新聞報道の内容分析を通して、報道によってソーシャルレンディングという産業全体の社会
からの評価がネガティブなものとなったことを示した。本研究の特徴と貢献は、以下の二点で
ある。わが国の不祥事研究の多くは、不祥事を起こした当該組織に焦点を当てるものがほとん
どであるが、本研究は、同業他社や産業に対する不祥事の影響の広がりに焦点を当てたという
点である。また、イノベーション研究の多くがすでに成功をおさめている企業や事例に注目し
ているのに対して、本研究は、その途上にある黎明期の産業に注目し、その過程で生じた正当
性の獲得と不祥事の関わりを検討した点にある。