我が国の敷金に係る法的状況は、非常に混沌としている。我が国での敷金の扱いは、明確な法的根拠もなく、不動産市場の慣習にすべてが委ねられている。このような、状況が、賃借人に不利益を与えるような、不透明な制度運用を招いている。本稿においては、こういった不透明さを、除去する方策を、敷金の限度額設定の議論から見いだそうとする。特に、ドイツ民法第551条の敷金に関する諸規制を参考にして、限度額設定を行うことで、敷金制度をより透明で、有意義なものと理解できるようになるという仮説にもとづいている。我が国においても、かつては地代家賃統制令という特別な規制によって、敷金を賃料3ヶ月に限定する規制が行われていた。この規制と、ドイツ民法における規制を比較検証すると、それぞれ、規制の意義と目的に大きな相違点を見いだすことができた。このような、根本的な思想の違いを指摘しつつ、敷金制度のあるべき運用を模索することが、本稿の目的である。