我が国の敷金制度が不動産取引の慣習と実情という名の下でやや不透明な扱いを受けている点を問題視し、敷金制度について明文にてその機能を明確に示している、ドイツ民法第551条の議論、そして成立に至った過程を、判例を中心に分析することで、明確化し、我が国の敷金制度の運用の参考としたい。敷金制度を公正かつ透明に運用するために必要な要素は、賃借人の納得である。敷金がどのような目的と役割を持っていて、その機能はなにが中心にあるのかを、賃借人が納得しなければ、この制度は円滑に運用されない。敷金は、賃貸人にとっては、信頼関係を担保するための重要なものであり、賃貸人・賃借人双方が制度の意義を十分に理解し、活用する必要がある。このような要請に対してドイツ民法第551条は、具体的に、敷金は誰のものであるかという原点に返って、すべての制度運用を決定している。たとえば、敷金から発生する利息は誰に所属するのか、また、賃貸人が破産してしまった場合に、賃借人の有する敷金返還請求権は、どのような扱いを受けるのかという点を中心に、敷金制度の運用にあたっての透明性の確保に努力している。同時に賃借人反故の精神を受け継ぐ制度も各所に散見される。