本稿は,令和元年 7 月 21 日施行の参議院議員通常選挙に対する選挙無効訴訟に関する 最高裁判所大法廷判決(令和 2 年 11 月 18 日)の評釈である。 令和元年参議院議員通常選挙では各選挙区における投票価値には最大 3.00 倍の較差が 生じていており,最高裁判所はこれを合憲と判断した。これまで最高裁判所は,投票価値 の較差に基づく選挙無無効訴訟において,昭和 39 年以来幾度も判決を繰り返してきてお り,国会はこれに呼応するかのように公職選挙法を繰り返し改正してきている。近年の公 職選挙法の改正をみると,平成 27 年には,参議院における議員定数不均衡を解消するこ とを目的として,4 県 2 合区を含む「10 増 10 減」の定数改正が行われている。この改正 により,鳥取県と島根県,徳島県と高知県はそれぞれ合区され,定数が 2 人へと改められ, 北海道,東京都,愛知県,兵庫県,福岡県はそれぞれ定数を 2 増,宮城県,新潟県,長野 県は定数を 2 減とされた。公職選挙法は平成 30 年にも改正され,埼玉県選挙区の定数が 2 増され,参議院選挙区選出議員の定数は 146 人から 148 人となり,参議院比例代表選挙 の定数は 96 人から 100 人とされ,新たに特定枠制度が導入された。 従来,最高裁判所は,参議院の「特殊性」(参議院の半数改選制から,各選挙区に偶数の 定数配分する)から,参議院における投票価値の較差を衆議院におけるものとは区別して 緩やかに解釈し,より大きな投票価値の較差を認めてきた。また,近年では,最高裁判所は, 投票価値の平等を実現するための国会の取り組みのプロセスを評価する傾向にある。 本稿は,近年の判例の動向を踏まえながら,令和元年判決を評釈することによって,較 差是正を目指す継続的な国会での取り組みが最高裁判所における合憲性審査の中でのどの ように評価されるのかという点について考察を試みるものである。