一般に音楽鑑賞においては,録音された演奏よりも,生(ライブ)演奏を聴くほうが,心理的に強い影響が生じると言われている.しかし従来の先行研究においては,実際の演奏に関し実証的に比較した研究はほとんど見られない.そこで本研究では,プロのピアニストが目の前で生演奏をした場合と,それと同じ状況で録音した演奏を聴取した場合とを比較し,聴き手の感情に与える影響や曲・演奏に対する評価にどのような差異がみられるのかを検討した.その結果,生演奏においては,同じ曲であっても演奏に対する評価が高まり,聴き手自身の感情変化も大きくなった.また,テンポの遅い曲では非活動的な快が生じ,逆にテンポの速い曲では活動的な快が生じるなど,曲の感情価によって聴き手の感情的変化の方向に差異が生じることも示された.本研究は,これまで素朴に信じられてきた「生演奏の良さ」を実証的に示したという点で,大きな意義があると思われる.