初めての武家政権である鎌倉幕府は権力の正統性確保のために朝廷という旧勢力を利用する二重構造を構築し、後家人の情報ネットワークで体制を支えていた。従って情報は安全保障上第一義的重要性をもって位置づけられ、流言飛語、根拠のないガセ、意図的な作為情報の流布による騒乱等を防ぐための法的根拠として、貞永式目に「悪口罪」なる条項を制定した。言論の自由の対置概念としてのプライバシー保護や名誉棄損といった問題が、高度情報化社会における重要な課題である今日、既にそうした概念を内包していた800年前の情報システムを分析することは非常に意義のあることであろう。