所得課税におけるキャピタル・ゲインの取扱いは,伝統的財政学の中心的論点のひとつであり,所得概念論争において課税ベースを源泉説又は経済力増加説のどちらで把握すべきかの問題に収斂される。キャピタル・ゲインは高所得者層に集中しており非課税による租税回避行動を防ぐために1970年代に実現ゲインにのみ課税する動きが出てきた。キャピタル・ゲインには発生主義に基づくあらゆる種類の資本的資産からの評価益が含まれるが,未実現ゲインに関する課税は難解であり,サイモンズ(1938)の理論をベースにフィージビリティーを追求したカーター報告(1966)があるが,現実の税制との乖離は大きい。未実現ゲインへの課税は市場価格の評価及び納税のキャッシュ・フロー問題から困難であるが,非課税だとロックイン・エフェクトや課税の集中問題が起きてしまう。
本稿は,セルツァー(1951)の所説を紐解き,キャピタル・ゲインの経済的本質を明らかにすることを出発点とし,カーター報告の議論を加えて望ましい課税を模索する。税制は広く浅く(幅広い課税ベースに低税率)が望ましいが未実現ゲインへの課税は実現しないだろうから,実現ベースで課税技術を駆使して課税の公平を目指すべきである。