音節文字の系譜というシリーズでの研究ノートにおいて,第 1 回目の概説に引き続き, 楔形文字における音節文字の形成について解説する。初期のシュメール王朝において,音 価を表わす表音文字として,音節文字が導入されたが,それは固定された文字で表わすの ではなく,漢字の音を借りた萬葉仮名のように,楔形文字の一部の音を充てて,固有名詞 の音節を表わす方法が導入された。現在の平仮名のように,特定の楔形文字を固定して, 特定の音節を表わすようになったのは,セム系の子音中心の言語を持つアッカド王朝にお いてからであり,それに続くアッシリア・バビロニアにおいても,その方式が踏襲されて いく。初期のシュメールにおいて,音価を表わす基本単位として音節を用いた関係から, 続く王朝においても,本来セム系の言語ではアブジャドを用いるべきであるが,音節で音 価を表わす方式が使われている。最終的には,セム系のアラム語が公用語になり,アブジャ ドのアラム文字が楔形文字を駆逐していくが,周辺のエラム文字などに音価を音節単位で 表記する方法が残り,次のインド系の文字へ受け継がれていく。