本論文は、バナウソイ(手仕事をする人々)と称された人々ののこしたモノ、のこした言葉を集め、分析することから「古代ギリシアの労働観」を再考することを試みたものである。「古代ギリシ アの労働観」は、19 世紀後半以来、今日にいたるまで、労働観をめぐる研究の出発点として取り上げられてきた。しかしながら、これらの研究で論じられる「古代ギリシアの労働観」は、クセノフォン、プラトン、アリストテレスなど知的エリートによる言説から再 構成されてきたにすぎない。この論文では、アテナイを考察対象とし、総合的に考察の対象とされることのなかった奉納銘文と墓碑銘、呪詛文を手がかりにすることから、バナウソイの労働への向き合い方について考察している。経済活動に対する労働者の能動的な姿勢に注目することから、「古代ギリシアの労働観」について再考する必要のあることを示した。