本稿はソーシャル・キャピタル論の視点から、AI/ICT技術を利用した自治体運営に関する考察を目的としている。なお、AIによる技術進歩がもたらす社会変化に対する社会科学的な考察は始まったばかりである。主に、本稿は「AI/ICT技術の進歩はソーシャル・キャピタルを補完するのか」を問いかけている。
稲葉(2018)が実施した「AIがもたらす社会への影響に関する調査データ」によれば、必ずしもAIによる技術進歩は、ソーシャル・キャピタルに負の影響だけをもたらすものではない。筆者の推計結果によれば、市民の認識レベルに留まるが、AIを自治体運営に社会実装することは、とりわけ地域の結束型社会関係資本の維持に向けて期待されよう。
まず、地域コミュニティの現場では、「地縁的な活動」を頻繁に行う住民は、他の属性要因を統制しても、「政策立案へのAI導入」、「コミュニティの見回りへのAI導入」に対して明るい。そして、辻中(2006)データを併用することで、コミュニティで活動する現場の人不足・財源不足による懸念によって、AI利用への期待が寄せられていることが確認された。
上記の知見は、隣近所の見回りを行う様な地域活動は現在、住民にとって負担が大きいことを示唆している可能性がある。監視コストを減らすような政策立案の手立てとしてAIを自治体運営に社会実装することは、コミュニティの現場で働く住民の負担を減らすためにも必要な取り組みと考えられうる。自治体運営にAIを社会実装することは、コミュニティの希薄化が叫ばれる中で、結束型社会関係資本を維持させるという観点からも重要な取り組みであることが考えられよう。