所得格差は、長らく市場構造や経済成長、あるいは再分配政策の問題として論じられてきた。賃金や利潤の配分は、生産性、需給関係、資本と労働の交渉力など、市場条件から説明されることが多い。また、格差の是正は税制や社会保障制度といった政策領域に委ねられてきた。
しかしながら、分配が具体的に決定される場は、市場そのものではなく、企業や各種法人といった組織内部である。役員報酬、従業員賃金、内部留保の形成など、付加価値の配分は組織の内部において制度的に決定される。にもかかわらず、組織内部の分配決定構造それ自体を理論的中心に据える分配理論は、必ずしも十分に提示されてこなかった。
本稿は、この点に着目する。組織は分配決定権を制度化する構造であり、その構造のあり方が分配構造を規定する。そして、その分配構造の差異が、最終的に所得格差として現れる。本稿の目的は、分配の因果起点を市場ではなく組織内部に再定位し、分配決定権組織理論を理論的に定立することにある。