本研究は時間軸での環境目標斉合性の実現に向け,企業がどのようなシステムで体系的に取り組もうとしているのか(システムの設計と活用方法)を明らかにすることを目的とした。そして長期的な環境目標斉合性の達成に向ける方法として,これまで国家や地方自治体の政策実務レベルで注目されてきたバックキャスト法に着目した。そしてこの手法の有効性を理論・実務両面から検討した。まず先行研究の再検討からは,バックキャスト法が理論的に適合的であることを明らかにした。実践的アプローチとしては単一ケーススタディ法を採用し,先進的な実践を展開しているソニーグループを事例企業とした。現状2050年に向けたカーボンニュートラルを目指す企業が多い中、同社は10年前倒しで目標を再設定している。同社は長期・中期・短期にわたる環境計画を体系的に構築し,その計画の達成に向ける活動を着実に展開していた。ここでは,長期計画(10年以上の期間)ではバックキャスト法で挑戦的な目標を掲げつつも,短期計画(1年間)では過去の実績ベースのフォアキャスト法も併用し,これら両手法を結びつけ,調整する役割として中期環境計画(環境戦略:同社では5年間)を機能させようとしていることを明らかにした。つまり同社のSDGsへの取り組みにおいて、環境戦略(中期環境計画)の果たす役割は極めて重要である。本研究の貢献点は企業の SDGs の取り組みにおける環境目標斉合性を高める仕組みについて明らかにできた点である。