本稿では1908年第4回夏季オリンピックロンドン大会が与えた社会的な影響について考察をおこなった。
この大会にはイギリスの伝統的な価値観である「スポーツ競技はジェントルマンである上流階級が行うもの」という考えが色濃く存在した。この価値観は,ヨーロッパにおいて労働者の社会的・政治的な台頭が著しい20世紀初頭の風潮とそぐわず,さまざまな問題を引き起こした。特に労働者のスポーツ参加が顕著であったアメリカにとって,この価値観はイギリスへの敵対心を芽生えさせた一因となった。また,この価値観により,経済的・政治的理由などによりイギリスからアメリカに移住を余儀なくされた歴史をもつアメリカ系アイルランド人は,競技を通じ,イギリスへの敵対的な感情を一層増殖させた。
さらに,自国のスポーツ連盟を通じてオリンピックに参加するという仕組みを採用したことにより,「オリンピック選手=国の代表」という価値観が生まれ,スポーツを通じての国家間の戦いという意味合いが強調される結果となった。
このように,1908年第4回夏季オリンピックロンドン大会は「オリンピックにおけるナショナリズム」を高揚させるものとなったといえる。