「働き方改革」の背景には,(1)わが国の「労働力人口の減少」という現実がある。この状況下での労働力の確保は,(2)経済成長,税収確保,医療・社会保障の維持に不可欠
である。しかし,同時に,(3)女性の社会進出・高齢者の活用の推進や(4)非婚化,晩
婚化,少子高齢化への対策,過労死・過労自殺,ブラック企業等の社会問題の解消とも密
接に関わっている。わが国企業・経済の成長・発展と,人々の生き方・働き方,すなわち,
ワーク・ライフ・バランス(=Work Life Balance)の問題が根本から問われている。
資本主義ないし市場経済における企業経営は,営利性原則に則って発展してきた。と
ころが,近代以降の社会や文化の発展水準を示す尺度は,民主主義とヒューマニズム=人
間性の普及の度合いである。文化・社会の発展段階によっては,営利性原則を貫徹するた
めにも,民主主義や人間性原理を企業経営の中に取り入れざるをえない。この具現化した
ものが,ワーク・ライフ・バランス概念である。しかしながら,ワーク・ライフ・バランスの名の下に理論的・実践的に取り組まれよう
としている課題が極めて重要なものであることは疑いようがいないにもかかわらず,ワー
ク・ライフ・バランスは労働問題の一つとして取り組まれているため,上述した複合的な
問題に対応できていない。
したがって,本稿ではワーク・ライフ・バランスを労働問題一つとして捉えるのではな
く,企業経営および経営システムの問題として構造的に分析することの重要性を考察する。