ここ数年,グローバル化の急速な進展や少子高齢化社会の本格的到来を迎え,我が国に
おいても,政労使挙げての「ワーク・ライフ・バランス(Work Life Balance:以下,
WLB)」推進へ向けた取組が活発に行われている。これに伴い,多くの日本企業が仕事と生活の調和を意味する WLB 支援制度を積極的に
導入し,従業員の両立支援をサポートする動きが見られた。WLB の実現は,長時間労働
や硬直的な働き方の是正を目指す働き方改革を土台として可能となるものとして位置づけ
られている。また,こうした一連の取組が,性別を問わない働きやすい職場づくりを可
能とし,職場における女性活躍推進へとつながっていくとされている。他方で,企業における WLB 支援は,働きやすい環境づくりを通じた生産性向上を意図
したものでもある。WLB 支援が企業の業績や生産性に与える影響については多くの研究
蓄積が存在するが,それらの多くは,WLB 支援制度が企業業績や生産性に対してプラス
の影響を与えるとする分析結果を示してきた。こうした研究は,WLB 支援制度が業績
にもたらす影響を解明することを目的として,WLB 支援制度の有無とマクロな業績の関
係に着目していた。その反面,WLB と業績の正の関係が証明でき
ても,「WLB を充実させたから業績が上がった」のか「業績の良い企業だから WLB を充
実させることができた」のかの区別ができない,という問題を孕んでいる。すなわち,長期的競争優位の獲得と WLB との関係」が解明されていないのである。この問題を克するために,本稿では,WLB の視点を取り入れた,戦略的人的資源管理の枠組を考察した。