バブル崩壊後の、わが国経済あるいは企業業績が長期間低迷した要因に関しては、様々な角度からの分析がなされている。本論分では、失われた10年と称せられる90年代の日本企業の状況が同年代に初めて端緒を見せたのかを検証することにある。なお、60年代~90年代に至る可能な限り連続性を維持した長期財務データを用いていること、理論的仮説をあえて置かずに、データの特徴からその結論を支持する理論を見出す帰納的な手法をとったことに特徴がある。検証からは、90年代のみが特筆して日本企業の収益性低下を示すものではなく、基本的には石油ショックに見舞われた70年代以後、長期低落傾向の延長線上にあり、また強い製造業といった捉え方も、非製造業との比較では是とされるものの、同様の低落傾向にあったこと、さらに両者の付加価値生産性と人件費の伸び率を60年代から90年代でみると、その差の正負回数はほぼ拮抗しており、人件費の管理、抑制という経営上の観点からは殊更大きな違いは見出せないことが示唆された。第43号第1号、pp29-65