ギリシアにおける財政破綻にひきつづいて起こった緊縮財政の下で、既成政党は支持を失い、代わって極右政党「黄金の夜明け」と極左連合シリザが支持を集めることになった。とくにシリザは2015年から2019年まで政権をになうことになった。本論文では、この2つの政党における古代史への見方、古代史教育への態度を整理することから、ギリシア人が古代史をどのようにとらえようとしているのかを論じた。とくに「黄金の夜明け」が古代史を利用して「ギリシア人の優越性」を訴え、若者の支持を集めようとしたのに対し、シリザは古代史教育・古典教育をエリート主義と糾弾し、ギリシアの教育における古代史教育・古典教育の割合を引き下げる施策をおこなったことを確認し、両者の古代へのまなざしが、ギリシアの教育現場にどのような影響をあたえたかを概観した。さらに、古代史教育をめぐる議論が錯綜する中で生まれた新しい教育、新しい市民への発信のあり方の可能性について論じた。