Ainsworthらは、EUにおけるVAT逋脱及びその対策の議論を踏まえて、GCC(湾岸協力理事会)に対して、テクノロジーを駆使したVAT逋脱対策の採用を提案してきた。提案の骨格を形成しているのは、政府によって発行され、VATの支払のためにのみ使用される暗号通貨(cryptocurrency)VATCoinである。VATCoin構想は、暗号通貨、ブロックチェーン、スマートコントラクト、人工知能などの各種テクノロジーの特性や利点を踏まえた犀利な洞察によって練り上げられたものであり、その内容も具体性を有することが注目される。
日本の国税庁も、2017年6月に、ICT、AI、ビッグデータなどを活用して税務行政をスマート化するという内容の将来構想を公表し、いわばテクノロジーの行政利用のグランドデザインを示している。本稿では,税務行政におけるテクノロジーの活用のあり方を具体的に提案するVATCoin構想を紹介し、考察を加えることにより、テクノロジーの税務行政への活用の議論に資する素材を提供する。